ユーロ圏分裂、独のリスク 中核国が引き金 旧ソ連崩壊に見るシナリオ
ブルームバーグ
2012.6.16 05:00
17日に行われるギリシャの再選挙は、スペインなど他の重債務国の離脱を招きかねないとみられているが、ユーロ圏分裂のリスクは、むしろ中核国であるドイツの動向に左右されるとの見方が歴史学者らの間に浮上している。裏付けは、旧ソビエト連邦の中核的存在だったロシア連邦共和国が結果的に15の共和国で構成される連邦制を崩壊に追い込んだという事実だ。
世界初の社会主義国として1922年に成立した旧ソ連は、89年のベルリンの壁崩壊を契機にソ連共産党の独裁体制に対するイデオロギー的な反発が連邦内の各地域で一気に表面化。91年にはバルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)が相次いで独立を宣言し、15共和国による連邦体制は事実上崩壊した。
◆集団離脱の恐れ
米歴史家のスティーブン・コトキン氏は、旧ソ連崩壊に関する著書の中で、連邦内最大の人口を抱え圧倒的な経済力を誇っていたロシア連邦共和国の指導者らが体制崩壊の引き金を引いたと指摘する。
連邦国家の解体・消滅は経済面にも大きな影響を与えた。旧ソ連を構成していた15の共和国は、連邦崩壊から1年後の92年当時には共通通貨ルーブルを基にした経済ブロックを維持していたが、財政赤字が制御不能な規模にまで膨れ上がり、ハイパーインフレの猛威にもさらされるなかで、ルーブル圏にとどまる国はその後の2年間でわずか2カ国に激減した。
翻って現在の欧州はどうか。ギリシャの政治家が救済条件を破棄する可能性をちらつかせる一方、金融支援を要求したスペインの国債利回りは共通通貨ユーロ導入後の最高水準を記録した。さらにイタリアも支援要請を余儀なくされるとの見方が広がるなか、欧州北部諸国は南欧諸国を救済するための資金拠出をためらっている。
こうした状況にあって歴史学者らは、ルーブル圏で起きた地域経済ブロックからの集団離脱がユーロ圏でも近く起きるのではないかとの問いを発している。欧州連合(EU)の危機を長期的に捉えるその視点は、エコノミストよりもはるかに厳しいものだ。
◆連帯の範囲狭く
「The End of Globalization: Lessons From the Great Depression(仮題=グローバリゼーションの終焉(しゅうえん):大恐慌からの教訓)」などの著書で知られる米プリンストン大学のハロルド・ジェームズ教授(歴史学)は、旧ソ連崩壊の経験を踏まえ「通貨圏からのこうした離脱は大きな混乱を伴い、所得喪失とインフレを招く。人々が恐れるのは当然だ。旧ソ連諸国が90年代を通じて軒並み深刻な問題を抱えたことを考えれば、(ユーロ圏にとって)決して好ましい類例ではない」と分析する。
旧ソ連と現在のEUでは共通点よりも相違点の方が多いとはいえ、歴史学者らは債務危機を検証する上で参考になり得る類似点もあると考えている。具体的には、両者とも2つの世界大戦が引き起こした集団的トラウマの結果生まれた体制であること、また危機に直面して崩壊の瀬戸際にある時期に、体制を創設した世代が寿命を迎えようとしていることなどだ。
ブルガリアの首都ソフィアを拠点とするシンクタンク、自由主義戦略センターのイワン・クラステフ会長は「ロシア連邦共和国がルーブル圏崩壊に果たした役割を教訓に、EUはドイツの動きを注視する必要がある。ドイツが、より小さいユーロ圏や2つの異なる速度の欧州を求めることに対し、警戒を強めるべきだ」との認識を示した。
通貨同盟の分裂は問題を抱える周辺国ではなく政治的・経済的に優位に立つ中核国がもたらすと説く同氏は「各国が独自の道を歩みたいと自ら進んで分裂するわけではない。より緊密で最も有益な同盟を目指す一部の指導者が余分な国を切り捨てていくのだ。欧州では今回の危機以降、連帯可能な国々の範囲が既に狭まりつつある。EUの領域が改めて協議されることになるだろう」と予測した。(ブルームバーグ Catherine Hickley)