2012年9月16日日曜日

歴史

ツキュディデスもリシュリューもビスマルクもメッテルニヒも今や年老いたキッシンジャーも、彼らが見てきた国際政治における国家の対立と戦争を、現在の中国と日本、韓国と日本の関係と区別することはないだろう。
そもそも自分たちは平和国家であって、過去のように戦争なぞせずともこの世界を生きられるという馬鹿げた思い込み(或いは時代遅れの戦略)は、過去を生き、過去に戦争をせざるを得なかった人たちよりも自分たちのほうがひとつ上の立場にあって、過去の馬鹿は戦争をしたが自分たちは違うのだという傲慢と救いようのない勘違いとナルシシズムに由来するものだ。或いは、彼らは自分たちは20世紀の悲惨な戦争の歴史を知っていると言うやもしれぬ。だが、第一次世界大戦のときの指導者たちもペロポネソス戦争や30年戦争やナポレオン戦争やその他の多くの戦争を知っていたのだ。知らなかったはずがない。だが、それから二度も世界大戦は勃発したし、その後も戦争は絶えたことはない。
マルクス主義につながるヘーゲル的な唯物史観の歴史哲学は、ひとつの究極的な世界史の到達点として人類は絶対平和を確立するか、若しくは人類皆揃って破滅するかのいずれかになるだろう。
つまり、世界史は、「終わる」ということだ。核戦争により人類が滅亡して終わるのか、それとも世界政府が世界を支配して国家間の友好・対立という世界史が終わるのか。
いずれをとるとしても、世界史は大きなひとつの流れのなかにあって、それは不可逆的であって、客観的な法則に支配されていて後戻りなぞしないーこういう幼稚園児レベルの歴史哲学が、特殊な世界観に根差したものであるということが長く日本では隠され続けてきたように思う。
自分の祖国はもはや老いゆくだけの古ぼけた島国で、若者が活躍しなければならない理由が高齢者の年金と医療介護費用を負担するためだけだと若者が感じているとしたら、彼らの肢体になんの緊張感もなく呆けた面をさらしているのも幾分理解できるところがある。

だが。
この竹島や尖閣を巡る対立が、日清戦争や日露戦争や大東亜戦争を引き起こした原因とは全然異なるなどと言うことは正しいのだろうか。
これらの対立は、今や経済的な相互依存がかつてないほど深化したグローバリゼーションの時代における一部の馬鹿な政治家のアクロバットによる、「ブラックスワン(黒い白鳥=通常はあり得ないと考えられていること)」だと理解するべきなのだろうか。

歴史は繰り返すなどと陳腐なことを言いたいのではない。
だが、我々が生きる時間は膨大なのだ。あと5年で世界が終わるのならば、人類が消えてしまうのならば、それが確かに確証されるならば、もしかしたら我々は運命をともにする世界共同体として、世界規模の絶対平和を実現できるかもしれぬ(たぶんこの場合には、そうはならずに予定より早く人類は自らを滅ぼしてしまうような嫌な予感がするが)。だが、我々が生きる時間は長いのだ。人によっては絶望的なほどに。だから世界は終わるという幻想はここ百年と何十年の間、やたらと人気で歴史哲学の人気ランキングで常に一位を座を占めてきた。まぁ、分かりやすくて物語りやすくてなんだか格好いいような気もするから、お子様には見栄えがいいのだろう。
しかし、古今東西の歴史をすべて学び過去のリーダーがどういう場面でどういう決断を下しそれがどういう結果となって今に繋がっているかを強く自覚する大の大人であるならば、世界史の理解を自分の嗜好によって決めるはずがないし、どんなことも(再び)起こり得るものとかまえておくべきだろう。

道を歩けば犬の糞を踏むことがある。
居酒屋のトイレの排水溝から巨大なゴキブリが飛び出してくることがある。
ワシントンの地下鉄でスーパーヘビー級のおばさんのピンヒールで足を踏まれることがある。
突然大好きだったあの子と結婚することがある。

世界とはそういう意味不明で、混沌としていて、容易には理解しがたいものだ。
だってそうだろう。GDPで二位と三位と十五位の国々が、そのGDPからしたら毛ジラミほどの小さな島を巡って戦っているのだから。これを合理的に説明できる人がいるだろうか。いやしないだろう。日本人たちの言う、戦後の平和というものこそが「ブラックスワン」であって、今我々が目撃していることこそが、過去数百年の人類の歴史における通常の国家同士のあり方ということにさして誇張はないだろう。

俺は、そうだからこそ人間が好きだ。
人間も国家も世界史も、クソガキどもが理解するにはまだまだ巨きなものなのだ。だから、退屈している暇はないし、本を手放すことも無理な相談だ。


さて、独り言。
ちょっと嬉しいもので。
DCへのフライトが日曜日で今日は一日空いたものだから、市内を散歩。ふいに見つけたBarbourでずっと欲しかったワックス塗りのInternational Jacketを調達。
日本で買える値段のちょうど半分くらいだから、よい買い物。防水使用で最高に格好いいから、秋から春に優子丸を連れて遊ぶときにはこれにハンチングですな。
もちろんMade in England。50歳まで大切に着ようっと。
Piccadelly Circus駅からRegent StreetをOxford Circus駅方面に徒歩3分のところにお店があります。キルティングジャケットを含めて、スポーティで機能的だけどどこか大人っぽいものが沢山あります。
http://www.barbour.com/