2013年4月17日水曜日
2013年4月13日土曜日
「元気な子を」から「優秀で美しい子を」へ
この4月から一部の大学や病院で、新しい出生前診断の検査法が始まった。
これまでの羊水検査とはことなり、妊婦の血液を少しだけ採取して調べれば、胎児の染色体に異常があるかどうか相当の確率で分かるらしい。
これはパンドラの箱だと騒ぎたいわけではない。
だが、これは1つの、振り戻すことが極めて難しい不可逆的な流れのなかの一里塚である。
それは、「健康な子供を産みたい」というありふれたー通常誰もが首肯するー願望から派生する、際限のない人間の完全性と優越性への欲求へとつながっていくに違いない。
羊水検査のような気が重たくなるような検査をせずとも「異常」をより簡単に発見できるのに、それを行わずに結果障害を持つ子を産むという可能性を排除しないことは、人によっては無責任だと考えるだろう。
健康な子を欲する親の気持ちは、全く自然なもので、親となった今でも親となる前でもそんなことはよく分かる。犬でも猿でも猫でも子供でも、健康でそこらを走り回れるほうがいいに決まっている。
だが、我々にとって「異常」とは何なのだろうか。
退行性の脳障害を40歳以降に起こす遺伝子は、「異常」だろうか。
生殖能力がないことは「異常」だろうか。
160cm以下の身長は、「異常」だろうか。
120kmhの速球が投げられない身体能力は、「異常」だろうか。
東大に現役で入学できない知能は、「異常」だろうか。
禿げは、「異常」だろうか。
肥満は、「異常」だろうか。
卵アレルギーは、「異常」だろうか。
これらの問い全てに「異常」と答える人が行き着く先は、徹底的な遺伝子診断(スクリーニング)によって、上記の「異常」な遺伝子を持たぬ、背が高く、容姿端麗で、脳障害に悩むことのない、140kmhを投げられる、髪の毛ふさふさの卵アレルギーのない秀才を「デザイン」するということに他ならない。
当然だが、完全で網羅的な遺伝子のスクリーニングには金がかかる。保険でカバーされるようにはならないだろう。
つまり、金持ちはより広範な遺伝子のスクリーニングが可能になる。新しい検査方法が可能になれば、それをすぐに試せる。他方で、裕福でない者は全くスクリーニングを受けられずに、「背が低く、肥満で、禿げた、身体能力の低い子供」を産む「リスク」(それはリスクなのか?)を負わねばならなくなる。
そんなことが世代間に経済的資産とともに受け継がれていくとき、誕生するのは遺伝子レベル全てが分かたれる、新しい階級社会である。
セックスなんぞは快楽のためだけで、セックスによって子供を作ろうなんていうのは野蛮人か時代錯誤者の行いと言われるようになる。
すべての子供の胚は顕微鏡を使った体外受精によって誕生し、受精卵は遺伝子的に徹底的に検査され選別され、両親がOKと承諾した受精卵だけを母(代理母)の子宮に戻して出産に至る。
そんなことは、近い将来十分ありえそうなことに俺には思える。
よいことなのか、わるいことなのか。
ある友人は俺に「哲学ってさ、もう"終わった"んじゃないの?」と言ったのだが、別にサンデル教授をアメリカから引っ張ってくるまでもなく、未来はこれまで以上に政治的であり、そこで活動する政治家に信仰と哲学を要求するだろう。
ご参考までに、カリフォルニア精子バンクのHP。
2013年4月12日金曜日
奥歯ガタガタ
毎日のようにメディアを賑わす北からの挑発と威嚇の言葉のインフレを見ていると、そのうち朝鮮国営放送のアナウンサーが、
「オバマもパクもアベも全員ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわしたろかこコラァ!!」(あえて下品な言い方をしてます)
と言い出しゃしないかとハラハラしてしまう。
実際のところ、連日連呼される「無慈悲の鉄槌」だの「核による先制攻撃」だのは、上の「奥歯ガタガタ」とレベルとしちゃそう変わらんぐらい酷い、低次元のものだ。
もうちょっと文学的にというか、高尚な言葉を使えぬものかね。そこにいくと最近亡くなったサッチャーさんなんかは、フォークランド戦争の際にもかっこいいこと言うた(大英帝国の旗の下...)。歴史の重厚さはこういうところに出ますな。
もっとも、パキスタンから核兵器の小型化の設計図は得ているだろうから、北の核ミサイルというのは我々にとって現実の脅威である。自衛隊や政府の担当者は眠られぬ日々を過ごしているだろう。日本はいまは米国に核の傘に頼るしかないが、やがて自前の抑止力と攻撃力の保有を検討せねばならんだろう。
だが、最悪の独裁の言葉を笑い、小馬鹿にすることに意味がないわけではない。北が一番いやなのは、日米韓から「無視されること」だからだ。
北の核ミサイルを無視はできんが、馬鹿げた
平壌の挑発を日本のメディアが拾ってこれを煽って日本人が慌てふためく必要はまったくない。
そういえば、一昨日、すこし前まで横須賀で空母に乗っていたという歯医者さんに奥歯をガタガタさせながら一本虫歯を抜かれてしまったのは、僕です。
空を飛んでやってくるPM2.5に尖閣に北朝鮮。加えて三連動の超大型地震の可能性。
世界に高級住宅地とスラムがあるとしたら、我々が暮らす東アジアの日本は、疑いもなく後者になりかけておる。
人口以上の銃が転がっているアメリカのほうがより安全に感じるのは、残念なことだ。
「オバマもパクもアベも全員ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわしたろかこコラァ!!」(あえて下品な言い方をしてます)
と言い出しゃしないかとハラハラしてしまう。
実際のところ、連日連呼される「無慈悲の鉄槌」だの「核による先制攻撃」だのは、上の「奥歯ガタガタ」とレベルとしちゃそう変わらんぐらい酷い、低次元のものだ。
もうちょっと文学的にというか、高尚な言葉を使えぬものかね。そこにいくと最近亡くなったサッチャーさんなんかは、フォークランド戦争の際にもかっこいいこと言うた(大英帝国の旗の下...)。歴史の重厚さはこういうところに出ますな。
もっとも、パキスタンから核兵器の小型化の設計図は得ているだろうから、北の核ミサイルというのは我々にとって現実の脅威である。自衛隊や政府の担当者は眠られぬ日々を過ごしているだろう。日本はいまは米国に核の傘に頼るしかないが、やがて自前の抑止力と攻撃力の保有を検討せねばならんだろう。
だが、最悪の独裁の言葉を笑い、小馬鹿にすることに意味がないわけではない。北が一番いやなのは、日米韓から「無視されること」だからだ。
北の核ミサイルを無視はできんが、馬鹿げた
平壌の挑発を日本のメディアが拾ってこれを煽って日本人が慌てふためく必要はまったくない。
そういえば、一昨日、すこし前まで横須賀で空母に乗っていたという歯医者さんに奥歯をガタガタさせながら一本虫歯を抜かれてしまったのは、僕です。
空を飛んでやってくるPM2.5に尖閣に北朝鮮。加えて三連動の超大型地震の可能性。
世界に高級住宅地とスラムがあるとしたら、我々が暮らす東アジアの日本は、疑いもなく後者になりかけておる。
人口以上の銃が転がっているアメリカのほうがより安全に感じるのは、残念なことだ。
2013年4月7日日曜日
Shenandoah National Park, Virginia
DCから車で西へ110Mile(170kmほど)。
1926年に国立公園に指定されたShanandoah National Park(http://www.nps.gov/shen/index.htm)に着く。
公園というが、南北170kmにおよぶ広大な地域である。
西隣にはBlue Ridge山脈が平行して西Virginiaを支える背骨のように南北に走る。
夕方には尾根が見事な深い青に染まった。
ちなみに横須賀を母港とする米海軍第七艦隊司令部が乗るブルー・リッジ(揚陸指揮鑑)の鑑名は、この山脈に由来する。
夕暮れの終わり。夜の始まり。
夜は終わりではないから、俺は早く寝るんだよ。
死が終わりではないから、どうなんですか。
1926年に国立公園に指定されたShanandoah National Park(http://www.nps.gov/shen/index.htm)に着く。
公園というが、南北170kmにおよぶ広大な地域である。
西隣にはBlue Ridge山脈が平行して西Virginiaを支える背骨のように南北に走る。
夕方には尾根が見事な深い青に染まった。
ちなみに横須賀を母港とする米海軍第七艦隊司令部が乗るブルー・リッジ(揚陸指揮鑑)の鑑名は、この山脈に由来する。
夕暮れの終わり。夜の始まり。
夜は終わりではないから、俺は早く寝るんだよ。
死が終わりではないから、どうなんですか。
2013年4月2日火曜日
小さな小さな排外主義者たち
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130401-00414354-sspa-soci
(週刊SPA! 4月1日9時21分配信 )
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ここ最近、東京・新大久保や大阪の鶴橋など在日韓国人が多い繁華街で「朝鮮人を殺せ!」「出てけ」となどとコールするデモが開かれている。今まで行われた同様のデモでは、日の丸や旭日旗を掲げた集団が「朝鮮人をガス室に送れ」などと掲げた板を持ちながら練り歩き、参加者が「朝鮮人の女はレイプしろ」と語っている動画がYouTubeにアップされるなど、過激化の一途を辿っている。
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Seoulに行って日の丸を掲げて軍歌を流しながらたった一人でこれを叫んでみるがよい。
自分たちが多数派でいられるこの日本の首都で、少数派である在日韓国・朝鮮人に向けてこのような言葉を吐き、あろうことか我々の日の丸のかように愚劣なデモに持ち出していやがる。
俺は多数派が嫌いだ。自分が群れているというだけでなぜか苛苛する。だから集団登下校は大嫌いだった。
国家間の問題を持ち出して、少数派をこのような形で虐めようとする人間は、低俗過ぎる。
こういうデモをする人間は、いまだ日本では少数派だが、笠にかぶっているのは「日本人」という多数派意識である。
大東亜戦争に意義を認めるのは、多数派であった白人たちが支配する世界に対してあんな戦争をできたのは、そしてそれをしたのは、大日本帝国だけだったからだ。
強いものに向かっていくのは元気があっていいが、強くもないものが群れて自分より弱いものを罵倒して悦に入る。これほどおぞましく美から遠い光景があるだろうか。
社会学的に、あるいは労働経済学的にはいくらかこれについて論じることもできるのだろうが、もうなんか俺はこういう人たちがいると思うだけで力が抜けて、怒りが湧いてくる。
すぐに日の丸を燃やすどこぞの人間たちに対する怒りと同じ種類のあの怒りが。
真の愛国者は、ただ来るべき戦争に備えて、黙々と身体を鍛えるがよい。
あー腹立つ。
2013年4月1日月曜日
Tico Warbirds Airshow in Florida!!!
P51‐Mustang!! (Fighter)
A bit too small though...
第二次世界大戦後期に登場した米国の傑作レシプロ戦闘機。重にドイツに対する爆撃機の護衛機として脚の長さと空戦能力でドイツ空軍を圧倒した。それまでの米軍の戦闘機のずんぐりむっくりの不細工なデザインが嘘のような、英空軍のスピット・ファイアの流麗さをそのまま受け継いだかのような美しい快速戦闘機である。
この目で空を駆ける姿を目撃できるとは!
B25-Mitchell (Bomber)
http://ja.wikipedia.org/wiki/B-25_(%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%A9%9F)
いわずとしれた1942年4月の東京空襲を行ったドゥーリットル爆撃隊が用いた、日本人には忘れがたき爆撃機である。
この空襲の衝撃の故に、海軍軍令部は、1942年6月のミッドウェー作戦を行うことを決めた。「おいおいおい、太平洋の真ん中から空母で爆撃してきたよ。」ということで、根拠地になっているミッドウェー島、もしくは米太平洋機動部隊の殲滅を目指すことになったわけだ。その結果は、皆の知るとおりである。残念。山口多聞将軍が生きていればなぁ。
しかし、あんな機を空母から飛ばすって、アメリカ人は無茶苦茶なことを考えて実行したもんだ。戦闘機や攻撃機や雷撃機じゃなくて、見ての通りの爆撃機ですよ。
すごく可愛いらしい機です。「飛べねぇ豚はただの豚だ」というあの台詞を思い出しちまったぜ。プタプタプタプタ~
B32-Dominator (Not B29, Bomber)
B-29かと思った!
右側のピンクと緑の夫婦、似過ぎじゃ。
ピックアップ・トラック、星条旗、肥満、ハーレー、空には第二次世界大戦の戦闘機と爆撃機。まぁこれ以上ないほど”アメリカ”!なフロリダの昼下がりのドライブでした。
沙汰無でした
◯「文武両道」とは、東大にパスするほど勉学をしているが、野球もできる(たとえば甲子園に行くチームでレギュラーである程度に)ということを意味するように理解されている。俺はこれが嫌いだ。二つが全く関係ないものと認識されているからだ。
野球でも釣りでも登山でも、突き詰めると運動生理学や心理学や栄養学や生物学や気象学の勉強に至らざるを得ない。
野球を突き詰めて行った結果、ある英語の初動負荷理論についての論文を読む必要が出てきて、練習のないオフの日に辞書を片手に丸坊主頭の高校球児が大学院生が読むような論文と格闘する。で、たまに図書館で本や論文片手にシャドーピッチングをする。
これがあるべき文武両道だ。
いや、文武両道なんぞ、結果としてそうなっていたーという程度のものだ。だが、辞世の句をさらりと読めるくらいの教養は欲しい。
◯建築家の安藤忠雄氏は、思い立ってはふらりと唐招提寺や東大寺を訪ねるらしい。はるか1000年以上昔にこんなものを建てた人がいるということに、気持ちが引き締まるのだという。彼の競争相手は、奈良時代に釘もクレーンも何も使わずにただただ人力であのような構造物を設計し、建ててみせた先祖達なのだと思った。戦う相手のスケールが違う。
◯川端康成の「雪国」を日本食スーパーで借りてきた。駒子や葉子が小説中で使う、いわゆる女言葉というものがなんとも芳しく聞こえるのは、俺の時代錯誤のせいだろうか。
「弟が今度こちらに勤めさせていただいておりますのですってね。お世話様ですわ。」
「あら、いやだわ、嘘。いやな人。」
(いずれも「雪国」より)
まぁ2080年頃には、俺と同じように時代錯誤な青年が、「ひいおばあちゃんがその昔彼女のブログとかいうものに書いていた、『あのケーキ、チョーやばい!』というあの若く溌剌とした言葉使いは、もう過去のものになってしまったなぁ」と嘆くのでしょうな。
◯少し前、バランスの悪い頭でっかちの赤ん坊を抱えながら、DCのスミソニアン自然史博物館に行った。猿からホモサピエンスにいたる頭蓋骨が時系列で並べられていて(だんだん脳が肥大してくる)、俺の娘がなんで生後10ヶ月経っても一人で立ち上がることさえできないのか(これは他の生物と比べると異常である。カンガルーの赤ちゃんは母ちゃんのお腹に入っているが)、よーく分かった気がした。
人類は、かつて大いなる賭けに出たのだ。サーベルタイガーをはじめ巨大な肉食獣の食事にもなっていた、毛むくじゃらの我々の祖先は、馬のように危険から逃れるために生後すぐに立ち上がり駆け出すのではなく、脳を肥大させる方法を選んだ。これは直立歩行が可能にしたことだが、単純な運動能力は減退しただろう。いまの人間のような巨大な脳を頭部に押し込もうとすれば、自然、身体全体に対して頭部の重量が増し、特に乳幼児期の危険は増したことは疑いようがない。
だが、ここにこそ人類が捕食される一種の猿から、地球を支配する最強の生物へと進化する鍵があったのだろう。
だから、俺は10ヶ月になった優子が未だ走ることができなくてもイライラしない。
それは猿から人類に至る数百万年の自然との闘いの果てに、我々のみが手にしたこの脳という最強の武器を涵養するための大事な期間だからだ。だから俺はやつにキング牧師の演説を聴かせてやり、歌を聴かせてやり、高く放り投げてやる。
存外の愉快であることを告白しよう。
◯東電はかつての軍部になっている。いや、されている。我々は、戦争に負けた途端に掌を返して軍部に対する批判を声高にし、敗戦の責任を軍部のみになすりつけたのだが、福島の原発事故を起こした東電をいまやすべての悪の根源として袋叩きにしようとしてはいないか。
東電に勤めているというだけで、家族まで周囲から苛められ、男性社員は合同的なコンパに行けないという。
東電になんの落ち度もなかったとは言えないが、東電は、少なくとも、国が定めた3mという防波堤の2倍の6mの防波堤を築いていたのだ。それだのに、あのような超巨大地震と津波の結果起きた衝撃的な事故の原因と責任を、ぐしゃっと丸めて東電にだけ押し付けていては、あの事故から我々が学ぶべき全てを学ぶことができるだろうか。
福島事故後の反原発の動きは、大東亜戦争に敗北した後の日本に絶えず存在した、あの独りよがりの平和主義とかなり似ている。いずれの場合も、綿密で正確な、未来への教訓を得るための総括がなされず、スケープゴートを一人だけ引っ張り出してはこの人を国民とメディアがこき下ろす。彼らには一切の反論の権利が与えられない。何か言おうものなら、「あんな事故を起こしておいて、まだ反省していないのか!」と、こうなる。
ところで、浜岡に21mの防波堤を築くのはまぁいいとして、浜岡に20mの津波がくる時は、名古屋港も名古屋市も壊滅して数十万単位の死者が出るんじゃないかと思うんだが、それへの準備はしなくていいのかね?
野球でも釣りでも登山でも、突き詰めると運動生理学や心理学や栄養学や生物学や気象学の勉強に至らざるを得ない。
野球を突き詰めて行った結果、ある英語の初動負荷理論についての論文を読む必要が出てきて、練習のないオフの日に辞書を片手に丸坊主頭の高校球児が大学院生が読むような論文と格闘する。で、たまに図書館で本や論文片手にシャドーピッチングをする。
これがあるべき文武両道だ。
いや、文武両道なんぞ、結果としてそうなっていたーという程度のものだ。だが、辞世の句をさらりと読めるくらいの教養は欲しい。
◯建築家の安藤忠雄氏は、思い立ってはふらりと唐招提寺や東大寺を訪ねるらしい。はるか1000年以上昔にこんなものを建てた人がいるということに、気持ちが引き締まるのだという。彼の競争相手は、奈良時代に釘もクレーンも何も使わずにただただ人力であのような構造物を設計し、建ててみせた先祖達なのだと思った。戦う相手のスケールが違う。
◯川端康成の「雪国」を日本食スーパーで借りてきた。駒子や葉子が小説中で使う、いわゆる女言葉というものがなんとも芳しく聞こえるのは、俺の時代錯誤のせいだろうか。
「弟が今度こちらに勤めさせていただいておりますのですってね。お世話様ですわ。」
「あら、いやだわ、嘘。いやな人。」
(いずれも「雪国」より)
まぁ2080年頃には、俺と同じように時代錯誤な青年が、「ひいおばあちゃんがその昔彼女のブログとかいうものに書いていた、『あのケーキ、チョーやばい!』というあの若く溌剌とした言葉使いは、もう過去のものになってしまったなぁ」と嘆くのでしょうな。
◯少し前、バランスの悪い頭でっかちの赤ん坊を抱えながら、DCのスミソニアン自然史博物館に行った。猿からホモサピエンスにいたる頭蓋骨が時系列で並べられていて(だんだん脳が肥大してくる)、俺の娘がなんで生後10ヶ月経っても一人で立ち上がることさえできないのか(これは他の生物と比べると異常である。カンガルーの赤ちゃんは母ちゃんのお腹に入っているが)、よーく分かった気がした。
人類は、かつて大いなる賭けに出たのだ。サーベルタイガーをはじめ巨大な肉食獣の食事にもなっていた、毛むくじゃらの我々の祖先は、馬のように危険から逃れるために生後すぐに立ち上がり駆け出すのではなく、脳を肥大させる方法を選んだ。これは直立歩行が可能にしたことだが、単純な運動能力は減退しただろう。いまの人間のような巨大な脳を頭部に押し込もうとすれば、自然、身体全体に対して頭部の重量が増し、特に乳幼児期の危険は増したことは疑いようがない。
だが、ここにこそ人類が捕食される一種の猿から、地球を支配する最強の生物へと進化する鍵があったのだろう。
だから、俺は10ヶ月になった優子が未だ走ることができなくてもイライラしない。
それは猿から人類に至る数百万年の自然との闘いの果てに、我々のみが手にしたこの脳という最強の武器を涵養するための大事な期間だからだ。だから俺はやつにキング牧師の演説を聴かせてやり、歌を聴かせてやり、高く放り投げてやる。
存外の愉快であることを告白しよう。
◯東電はかつての軍部になっている。いや、されている。我々は、戦争に負けた途端に掌を返して軍部に対する批判を声高にし、敗戦の責任を軍部のみになすりつけたのだが、福島の原発事故を起こした東電をいまやすべての悪の根源として袋叩きにしようとしてはいないか。
東電に勤めているというだけで、家族まで周囲から苛められ、男性社員は合同的なコンパに行けないという。
東電になんの落ち度もなかったとは言えないが、東電は、少なくとも、国が定めた3mという防波堤の2倍の6mの防波堤を築いていたのだ。それだのに、あのような超巨大地震と津波の結果起きた衝撃的な事故の原因と責任を、ぐしゃっと丸めて東電にだけ押し付けていては、あの事故から我々が学ぶべき全てを学ぶことができるだろうか。
福島事故後の反原発の動きは、大東亜戦争に敗北した後の日本に絶えず存在した、あの独りよがりの平和主義とかなり似ている。いずれの場合も、綿密で正確な、未来への教訓を得るための総括がなされず、スケープゴートを一人だけ引っ張り出してはこの人を国民とメディアがこき下ろす。彼らには一切の反論の権利が与えられない。何か言おうものなら、「あんな事故を起こしておいて、まだ反省していないのか!」と、こうなる。
ところで、浜岡に21mの防波堤を築くのはまぁいいとして、浜岡に20mの津波がくる時は、名古屋港も名古屋市も壊滅して数十万単位の死者が出るんじゃないかと思うんだが、それへの準備はしなくていいのかね?
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