今俺の手元に「歌集 和気富士」という小著がある。著者は三宅白光。本名を三宅筆野という。明治二十一年、かつて道鏡の皇位簒奪を防いだ陛下の忠臣・和気清麻呂生誕の地、岡山県和気郡の生まれである。岡山高等女学校(現在の岡山県立操山高校)を経て小学校教諭として身を起こし、文学殊に和歌に熱心であり、与謝野鉄幹に師事した片尾(白眼)章乃丞先生に師事して俳句・短歌の指導を受け、膨大な数の和歌を残し雑誌「スバル」などにも投稿している。
またそれのみならず、地区の民生委員や国防婦人会幹部などとして戦時中には東奔西走の忙しさであったらしい。
社会正義に対する感覚すこぶる強く、世相批判も女性とは思えないほどに鋭い。この歌集は単に日々の生活の悲喜交交(こもごも)を和歌にしたという、現代にいうブログのようなものではない。
ある歌には「ケネディ」あり、ある歌には「クーデター」あり、また終戦間際に詠んだと思われる歌ではこうも詠われる。
愚かさを知りつつ君と国おもふ心一つに執りし竹槍
今の俺の気分の歌をこの歌集から抜粋して読者御一同様の御高見に供したく存奉候
思わじとすれど浮世の塵あくた吹きよせかかる人生街道
愚かしきこの身この魂打ち砕き神よたまわれめぐし生命を
いささかのこだわりもなく咲く花の真紅美し碧空のもと
山峡の家居はたのし露草のしげみに立ちて鴬をきく