大学院のとき、政治思想史の講義(ゼミ)を担当された小野先生に、「先生が一番好きな思想家は誰ですか?」と尋ねたら、瞬時に「ニーチェですね」と答えられたのをいまだによく覚えている。
ニーチェは、人間が到達しうる一つの究極の存在である。
難解なドイツ観念論にもくみせず、カントやヘーゲルのような壮大な哲学の体系を打ち立てたのでもないが、彼の思索には、人智を超えた何ががあるように思えてならない。
「人間は、獣と超人との間に張り渡された一条の綱である」
「我は愛する、大いなる侮蔑者を。かかる人こそは、大いなる崇拝者であるからだ。かくて、彼方の断崖へと向かう憧憬の矢であるからだ」
「我は愛する、自己の道徳よりして、みずからの傾向と宿命とを創り出す者を。かくするとき、この者は自己の道徳のために生き、死す」
「我は愛する、自由な精神と自由な心情との人を。かかる人にあっては、頭脳はただその心情の内臓である」
「かなしいかな!やがて、人間がいかなる星をも産み出さざる時が来るであろう。かなしいかな!もはや、自らをも軽蔑しえざる、最も軽蔑すべき人間の時が来るであろう。
見よ、われなんじらにかかる末人を示す。
『愛とは何であるか?創造とは何であるか?情景とは何、そもそも星とは何であるか?』
末人はこう質問する、そうして瞬きをする。
この時に、大地は小さくなったのだ。そうして、その上に、一切を小さくする末人が飛び跳ねるのだ」
「牧者なくして畜群がある!すべての者は平等を欲する。すべての者は平等である。しかして、独立を感じうるものは、自ら進んで瘋癲病院に入る」
「肉体は一つの偉大なる理性である。。。。同胞よ、なんじはなんじの卑小なる理性を『精神』と呼ぶが、これは実はなんじの肉体の道具にすぎぬ」
「同胞よ、もしなんじらが一つの道徳を所有するとせば、しかも、この道徳が真になんじの道徳であるとせば、なんじがこれを他人と共有することはありえない。。。みよ!なんじはかくすることによって、なんじの道徳の名を民衆とともに有するに至った。なんじの道徳を抱きながら、愚衆に堕し、家畜の群れと化すると至った!」
「同胞よ、もしなんじが幸いに恵まれしものであるならば、なんじはただ一つの道徳を所有すべく、より多くの道徳をば所有すべからず。かくてこそ、なんじは足取り軽く、橋梁をこえていける」
「人間は克服せらるべき或物である。されば、なんじはなんじの道徳を愛するべきだ」
「一切の書かれたるもののうち、われはただ、血をもって書かれたるもののみを愛する。血をもって書け。しかるとき、なんじはさとるであろう。血、すなわち精神であることを」
「かつて精神は神であった。やがてそれは人間となった。今は、まことに愚衆にまで堕した」
「山脈になっては最短の距離は山頂より山頂に及ぶ。そのためには、なんじの双脚が長くあらねばならぬ。箴言もまた山頂である。語りかけられる者は、高く大きく成長せる者であらねばならぬ」
「荒々しい労働を愛し、かつ速いもの、目新しいもの、珍奇なものを追うなんじらよ。なんじらはすべてよく忍耐する力が足りないのだ。なんじらの勤勉は逃避である。自己を忘却しようとする意思である」
「国家とは、一切の怪物のなかの最も冷ややかなるものの謂である」
「国家における一切は虚偽である」
「過剰なる人間の群れは生じた。かくて、かかる無用の人間共のために、国家は案出された」
「同胞よ、なんじらはかれらのアギトと貪婪の毒気のなかに窒息せんとするのであるか?むしろ、窓を破って、大気の中に踊り出でよ!
悪臭を避けよ!無用なる人間の偶像奉仕より立ち去れよ!
悪臭を避けよ!これらの人身御供より立ち騰る毒気より立ち去れよ!
大いなる魂のためには、大地はいまだふさがれていない。独りなるもの、また二人なる者のためには、いまだに多くの席が空いている」
「国家が終わるところに人間は始まる。かかる人間こそ、過剰なる者の群れに属せざる者である」
「逃れよ!なんじの孤独のうちへ!小人共、またビン然たる者たちに、なんじはあまりに近く住んでいる。かれらの目に見えぬ復讐かより遁れいけよ!」
「わが友よ、なんじは、なんじの隣人にとっては、良心の呵責である。なぜならば、彼らはなんじに値しないからである」
「『少なくとも我が敵であれよ!』、友情を得んとして、これを懇願することを肯んぜざる、真の畏敬はかく言う。真の友を持たんと欲すれば、その友のために戦うことも欲さねばならぬ。しかして、戦いうるためには、人の敵ともなりえねばならぬ。人は友のうちに最上の敵を有さねばならぬ。なんじ友に反抗するとき、彼にもっとも心近き者であれよ!」
「女性のうちに奴隷と暴君の潜むこと、まありにも久しかった。この故に、女性はいまだ友情を結ぶ能力がない。女性の知るはただ愛情のみである」
「人間の存在は怪奇にして、ついにその意義を持ち得ない。人間存在にとって、道化役者ですらがその運命となりえる。われは、人間に生存の意義を教える。之すなわち超人である。人間なる暗雲を裂いて閃く紫電である」
「やがて彼は眠りに落ちたー肉体は疲れながら、霊魂は憩いながら」
これでだいたい「ツァラトストラ」の四分の一ぐらいかな。