2010年10月24日日曜日

肥溜のイワシの骨

肥溜のなかで、人間の腸で消化されなかった独りぼっちのイワシの背びれの骨が、ふんづまっている。
大きな海に憧れながら、思い叶わず網に絡まれ丘へ上がり、やがて捕食者の口へ向かった。
群れでいきてきたはずのイワシは、小さな肥溜の内でもはや何ともつながっておらず、かと言ってなにかの一部に自らを混入させるには彼の自尊心は傲慢過ぎた。
肥溜から都会の夜の空に控えめに輝く月を見上げて、月の特殊的なることに嫉妬した。それは、月というものの、時代や歴史に、なかんずく人間などに左右されることのない、普遍的絶対的存在性への嫉妬であった。