数年来全国規模で問題とされてきた、鹿の食害や頂点捕食者の不在による生態系のメルトダウンを防止するために、まず知床に日本狼20匹をつがいで放つ。そのために研究から追跡調査までを行う特別会社を設立、広く民間・公より専門家を募り、2011年末頃に狼を北の大地に放つことを目指す。知床の狼の個体数を2018年に350まで増加させるのが現在の目標という。
移動中の”プロジェクト・ウルフ”推進室長であり、自身も灰色狼3頭とともに磐梯山の麓で週末を過ごす愛 狼家の三谷原”山桜”基氏は、「狼はかつては大神とも呼ばれました。米国イエローストーンでの成功例が示しているように、最強の捕食者は自然環境の上に乗っかって草食獣や家畜を食い散らす”害獣”などではなく、森を保存し緑を維持し生物多様性を保蔵するためのまさにキープレイヤーなのです。私は、よく山でキャンプをしますが、どこの山でも狼たちの美しい遠吠えが聞こえることは残念ながらありません。しかし、我々や同志のこのような取り組みをきっかけとして、やがて状況は好転するでしょう。私の子や孫たちは、冷たい山の空気を震わせる狼(=大神)たちの遠吠えのコーラスを聞いて、山が誰のものであるのかを頭ではなく皮膚感覚として理解してくれるでしょう」という。
尚、狼という獣を野に放すことについての危惧の声があるがとの問いに対しては、山桜氏は次のように述べた。「狼と戦って食われるのが嫌ならば、武装すればよいのです。野生は自分より強いものを本能で理解しますからね。しかし、もし狼に襲われたときに、彼女を狼から守ってみなさい。あなたは彼女にとって永遠のヒーローですよ。何より、狼はおらず安全だが緑もなにもない禿山よりも、狼が斃した鹿の骨が転がっている場所に暮らしたいとは思いませんか?」。
商社各社は、数年来の資源・エネルギー価格の高騰により未曾有の利益規模を謳歌してきたが、地球環境保護と生物多様性の維持のためには各社は世界各地でさしたる貢献をしてこなかった。そのため、各社は新エネルギーや環境ビジネスに力を入れているもののいまだ成果は上がっておらず、移動中は、猫の手ではなく狼の牙を借りて地球環境の保全に取り組む決意をした模様だ。従来より、失われた生態系を復活させるために日本の森に狼を導入すべしという声は根強い。
移動中は、狼をコーポレート・シンボルとして採用することを発表済みであり、そのサインは来年2月に も発表される予定だ。
ウィリアム・ソウルゼンバーグ「捕食者なき世界」文芸春秋社をご参照されたい。
著者の主張は要するに、
「生物多様性を維持するうえで、頂点捕食者はかけがえのない役割を担っている。大型肉食獣の生態系における重要性は、生態系を調整・維持する力が、ボトムアップで働くか、それともトップダウンで働くかによって働くかによって決定されるが、もしトップダウンの力が決定的に重要であるならば、大型肉食獣は生態系の在り方に重大に影響を与える存在である。したがって、頂点捕食者の絶滅(=不在)は、ある地域の生態系に破滅的な影響を与えうる。」
ということ。人間は、人間を捕食する可能性のある大型肉食獣を紀元のはるかはるか昔からその知恵と道具でもって大量に殺戮し、絶滅させてきた。
生物多様性条約締約国会第10回会議が現在名古屋で開催されているが、人類にとって無害な(なにそれ?)草食獣や熱帯雨林など”だけ”の似非の多様性を保存することのみに拘泥していては人間は救われない。生態系は、一つの環なのだ。
日本での狼の復活を唱える日本狼協会のHPはこちら。
それにしても、「哲学者と狼」といい「捕食者なき世界」といい、今年は狼年じゃの。