2012年12月4日火曜日

終わらない内燃機関の進化

MazdaのCX-5が2012 Japan Car of the Yearに選ばれた。順当な結果だと思う。

商売で一番愉快なのは、新しい市場を自ら作り出すことだと思う。スティーブ・ジョブスが、iPhoneを作る時に「市場調査をしましょう」と言ったあるApple社員に対して、「ベルが電話を発明したときに"電話が欲しいですか?"と市場調査をしたか?!」と言ったらしいが、全く新しい、これまでにない商品やサービスを生み出した企業は、当たり前だがいつも新しい市場を自ら作り出し急成長を実現してきた。
ジョブスが復帰してからのIpod以降のApple、アフターサービスに注力してパソコン通販のイメージを一新して価格破壊を起こしたDELL、「終わった」と思われていたアパレル業界で「機能的で手頃な値段の日常着」たるフリースやヒートテックを生み出したユニクロ、エトセトラ、エトセトラ。

いま日本国内で小売業を中心に血を流すような低価格競争が繰り広げられているのは、端的に人口減少時代に入り需要が飽和しているために、あらゆる企業が同じものを他社よりも安く販売しようとするからだ。
それは、100円で商品Aを売っている会社の顧客を、90円のほとんど同じ商品Bで奪うということであって、市場原理の最も分かりやすい現れではあるがけして新たな市場を作り出すものではない。
小さくなり続ける見込みのパイを奪い合う血みどろの戦いである。

この視点でMazdaのCX-5を眺めてみる。すると、この商品は、日本のミドルクラス乗用車市場に新しい価値、新しい選択肢を与えたものであることが分かる。

それは、「ディーゼルエンジンなのに環境負荷がガソリン車並みに低く、パワーは4LのV6エンジン車並みで、街中でもリッター当たり10kmを確実に走り、住宅ローンを持つサラリーマンでも手が届く価格帯のSUV」というものだ。

少なくとも日本市場にこれは競合がいなかった。
42kgものトルクのSUVといえば、まぁ誰もが街中での燃費は5~7km/Lで我慢していたんじゃなかろうか。むしろ大排気量と大パワーを誇るかのように「まったく燃費が悪くてねぇ」と言うような人にも会ったことがある。おまけにこういう過去のディーゼル車の出す排気と煤ときたら、今ではもはや信じられないほどだ。

5パーセントに全然足りぬ日本の乗用車市場でのディーゼル車の割合は、CX-5の登場が起点となって上昇していくに違いない。おそらく他の日本車メーカーも参入するだろうし、クリーンディーゼル技術では日本車より一世代先を走るドイツなどの自動車メーカーもこれから日本でのディーゼル車のラインアップを増やしていくだろう。最近、BMW Japanが基幹車種の3 Seriesに最新のディーゼルエンジンを積んだ320d Blue Efficientを追加したのはその一例である。

これから日本のドライバーは、燃費効率が良く、財布と環境への負荷が相対的に低い車を選ぶ際には、ハイブリッドと軽四自動車に加えて、より広い選択肢からディーゼルを選ぶことができるようになる。
それによって未だに高いハイブリッド車の価格が下がってくることも十分考えられるし、石炭を燃やして作った電気で走る電気自動車(どこがエコなんだろう?)のさらなる技術革新を生むかもしれない。

ディーゼル車の強力なトルクと高燃費=長大な航続距離は、明らかに長距離の高速巡行に最適だと思う。今はまだハイオク=高級車というイメージがあるが、将来にはディーゼル=高級車というイメージにとって代わられるかもしれない。
都会に暮らし都会で働くが、週末は数百kmを走って野山を子供と駆け回るという若い家族やカップルには、強力なパワーと高燃費のディーゼルSUVは最適解になるだろう。

が、一つ不満も言っておこう。
昨日義兄のCX-5 2.2L XDに乗ったが、やはりBMWにはまだまだ敵わない。CX-5は速く快適だが、それは馬車の速さであり快適さであって、馬の背に自ら跨がって野を疾駆する時の、生きた馬の鼓動を右の足の裏にピリリと感じるような「駆け抜ける喜び」は、やはりBMWのものだ。
広島のエンジニアさんは、「BMWとは競合しないから」などとは断じて言わないはずだ。競合するまでになって欲しい。会社の規模はフルラインアップメーカーはるかに小さく後輪駆動の高級車は作らぬが、しかしステアリングを握りアクセルを踏めば走ることそれだけに夢中になってしまうような車を作って欲しい。しかもそれを誰もが手にいれられる価格で。
Mazdaの株価もCX-5の好調な販売と円安もあって150円を目指そうかというところまできた。新たに登場した新型アテンザと来年登場する新型アクセラに期待をかけるなら、まだMazda株は買い時かもしれない。しかし、アクセラにも2.2LのTurbo?べらぼうに俊足のハッチバックになりそうだが。

腹が膨らめばさえすればいいというなら吉野家やファミレスに行けば良い。目的地までただ移動できればいいというならミニバンを買えばいい。燃費効率だけを求めるならシロモノ家電にタイヤをくっつけたようなハイブリッド車を買えばいい。
だが、これだけの巨大自動車生産大国となった日本に、「車は移動のために手段以上のものなんだ!」と主張するメーカーがなければ、やがて日本車メーカーは、今のシロモノ家電メーカーと同じ末路を辿るような気がしてならぬ。

だから、このCX-5が広島から生まれたことは、画期的なのだ。